「きずさえも愛着になる 古さを味わいに変える平屋風の家」
正面から見ると平屋のようにも映る家は、建物の奥に向かって屋根が高くなる片流れのスタイル。 ポーチの上まで張り出した屋根が、玄関前に小気味のいいテラスをつくりいかにも楽しげだ。 味わいのある木の壁は、米杉を使ったウイルウォールという不燃材。耐久性にすぐれ、年を経るほど風格を醸し出す。 新築のピカピカした印象より、昔からそこにあるような家を。そんな夫婦の願いが、随所に表れている。
新築のきっかけは、エコアハウスでリフォームをした、ご主人の職場の上司の紹介によるものだった。それまでにもいくつかのハウスメーカーをあたってはみたが、一任するまでには至らなかった。「家に対していろいろとやりたいことがあったので」というご主人。「新築だけれど、古い感じのする家にしたかった」と、奥さまが付け加える。「たいていの場合、この希望を伝えると『はぁ?』といわれるのがほとんど。でも、すぐに私たちが意図することを理解してくれました」。
Tさんご夫婦は若くして結婚し、小学生のお子さんが2人いる。工業系高校の同級生というふたりは、自分たちで計画した家を二十代で建てるのが夢だった。そして、ご主人が26歳の今年、ついに念願を果たしたのである。
この4月に完成した「新しいのに古い感じのする家」は、正面からは一見、平屋に映る。実際には、子ども部屋2つを2階に配した建物だが、基礎をギリギリまで掘り下げたことで高さを抑えている。夫婦揃って木が好きだということで、外壁に米杉を使い、ムクの素材ならではの素朴なあたたかみを醸し出している。室内の床にもムク材を使い、光沢を抑えた深い茶色で塗装。どこか親しみのあるなつかしい表情だ。「いかにも新築というのはイヤだったんです。新しさを保つのに気を遣うより、キズや汚れも味となって家族の時間を積み重ねていけるような家が理想でした」。
さらに奥さまが目指したのは、カフェっぽい家。生活感がありそうでなさそうな、人の存在を感じさせる空間づくりだ。「たとえば、リビングはとくにカフェを意識しました。ここではDVDを見たり、音楽を聴いたり。おしゃべりだけのお客さんなら、ここでお茶を楽しんでもらいます。ひとつひとつデザインの違う椅子は、実家の母がやっている店からセレクトしたもの。お気に入りの家具が似合う空間を、「いっしょに考えるのはとても楽しい時間でした」。キッチンのペンダントライトもお母さまの店から選んだもので、この2つの照明が映えるよう、キッチン正面はフルオープンとした。
オリジナルで製作したTVボードの上は、開放的なロフト空間。さらにその上は2階のフリースペースと連動しており、上下階がゆるやかにつながっている。下から声をかけるとお子さんたちにも聞こえるので、これは便利。また、TVボードを軸に裏側のスペースとも回遊できるよう、両サイドには開口が設けられている。裏側には2段ほど床を低くしたファミリースペース、書斎コーナー、主寝室が同一線上に並ぶ。キッチン側に近いファミリースペースは、大きな座卓が置かれたダイニングスペース。ふたりのお子さんも、ここがいちばん好きだそうで、ゲームをしたり宿題をしたりと、家族のいる場所に集まって来るのである。
ご主人が「狭い家にしたかった」といえば、奥さまも「私もそう。落ち着くんですよね」。その思いを反映させて、とくに主寝室は、ベッドを置けるだけのギリギリのスペース。とはいえ、コンパクトながらも楽しく機能的な空間が効率よく配置された住まいは、閉塞感や窮屈さを少しも感じさせない。ご夫婦のいう「狭い家」とは、みんなが寄り添って暮らせる愛着のわく家をさすのだろう。